渋谷区で主として中古マンションの売買仲介を行っている株式会社リアルプロ・ホールディングスの遠藤です。
ジェントリフィケーション(gentrification)とは都市の再開発や活性化に伴い、街が高級化していき、今までそこで暮らしていた人々が地価や家賃の上昇に伴い、そのエリアから実質的に排除されてしまう現象をいいます。
プラス的にいえば、「都市の高級化現象」という事になります。
但し、そこに住む居住者の排除ではなく、地域の建物が再開発により新しくなったり、不動産の価値が上昇するケースを示す言葉として一般的には使わるようです。
イギリスのロンドンやアメリカのニューヨークなどではかなり問題となり注目されましたが、日本ではあまり大きくクローズアップされてきませんでしたが、今後は日本ではどのようにジェントリフィケーションが進んでいくのでしょうか?
私は都市工学等の専門的な意見ではなく、日々不動産取引に携わる実務者として感じていることを記載したいと思います。
欧米の事例
ジェントリフィケーションという言葉は、1964年、ルース・グラスという社会学者が使いだした言葉です。
イギリスのロンドンで、倉庫や工場、また、それらで働く人々(ブルーカラー)の需要に応える商店など比較的低所得者が住むエリアに、再開発等で高級住宅やホテル等が建設され、日本で言うホワイトカラーの人々が移り住むようになり、地価や家賃が高騰して労働者階級の人々が立ち退きを迫られたことを指す言葉でしたが、その後、都市工学や社会学といった多くの学問で使われるようになりました。
アメリカではニューヨークの中心であるマンハッタンがその代表例です。
ニューヨークは各エリア毎に呼称があります。豪邸や高級マンションがある「アッパー・イースト・サイド」、ミュージカル「ウエスト・サイド・ストリー」の舞台になった「アッパー・ウエスト・サイド」、アートやレストランが充実した「チェルシー」、かつて最悪の治安と言われた「ハーレム」などの地域がありますが、再開発で最も様変わりしたと言われるエリアは「ソーホー」かも知れません。
「ソーホー」はもともとは倉庫街でしたが、広いスペースを求めるアーティストが移り住み、その結果、ギャラリーが増加して発展していきました。
その後、大手ブランドショップが多数出店し、人気エリアとなったソーホーは家賃が上昇してしまい、街の活性化の源になったアーティストやデザイナーは近隣の地区に移動し、その結果、「ソーホー」を中心に周辺地域まで街全体が活性化していきました。
私はもうかなり前の話しになってしまいますが、2007年に仕事でニューヨークを訪れた際に、かつて食肉加工工場があり治安が悪かったエリアが「ミートパッキングディストリクト」という名称になり(そのまんまの名前はびっくり)若いセレブ達がホテル屋上のプールサイドで平日の昼間からシャンパンを飲んで楽しんでいた光景がいまでも目に焼き付いています。
今でも目に焼き付いている理由は、私も、その頃は上場を目指す不動産投資顧問会社の役員をしており、とにかく上昇志向で、ギラギラしていたので、羨ましかったのだと思います。
日本で言えば、東京中央卸売市場食肉市場があり敬遠されていたエリアが品川グランドコモンズと品川インターシティという再開発よってできた街に生まれ変わり、日本有数の企業数社が本社ビルを移したのと少し似ているかも知れません。
話をもとに戻します。かつてと言っても1990年代前半まではドラッグと売春が蔓延しておりニューヨークの中でも、かなり治安の悪いエリアが、流行の最先端を行くブティックやナイトクラブの出店により、250近くあった食肉加工工場が、当時の時点でほぼ無くなっており、地区を代表する「ニューヨークハイラインパーク」という毎年数百万人が訪れる公園を中核としてお洒落なホテルやレストランが進出し、結果、地域全体の質が上がることによって治安が劇的に向上しました。
一方でこのエリアに住んでいた人々は家賃の高騰等により、より環境の劣る場所へ転居したり、中にはホームレスになってしまったという問題もあったようでジェントリフィケーションはプラスとマイナスの両方の側面を持っています。
ただ、私はその後ニューヨークを1回も訪れていないので、そのまま治安が維持されているかはわかりません。
ニューヨークは日々変化する都市と言われ、栄枯盛衰が世界で最も激しいエリアと言われています。
コロナによるパンデミックにより、ニューヨークは治安が悪化したというニュースも流れているので、まだ先になってしまうと思いますが、最新の情報はまた訪れるしかないと思ってます。
日本におけるジェントリフィケーションは??
関西地区では、京都の西陣や大阪のあいりん地区が有名です。
では首都圏ではどうなのでしょうか?
タワマン密集地帯である豊洲エリア、武蔵小杉駅周辺、川崎駅周辺、中央区湾岸エリア(佃島、月島、晴海、勝どき)の中では、中央区が一番ジェントリフィケーションが顕著になったエリアだと思います。
豊洲エリアや武蔵小杉駅周辺、川崎駅周辺はかつて大手企業の工場や社宅があり、これを再開発してタワマンや商業施設が出来ており、工場にはもともと人は住んでいませんし、社宅に住む住民は大手企業の社員なので年収は良く、会社都合とはいえ、年収が低い層の方が追い出された訳ではありません。
中央区は戦後の昭和25年には161,925人いた区民が、街の発展による街のオフィス化等に伴い、徐々に区民が減少していましたが、バブル時代に地上げが横行し、投資を対象としたワンルームマンションが多く建設され、昔から住んでいた人々の多くが中央区から離れてしまい、共同住宅の面積を40㎡以上とするワンルーム規制などの対策を取りました。
然しながら、流出の流れは止まらず、1980年には82,700人いた区民が、1995年には63,923人まで減少してしまいました。※いずれも国勢調査の数値
しかし、その後、職住近接の流れやアベノミクスによる経済政策により、都心回帰の流れが加速し、それに伴い湾岸エリアに大型タワマンが次々と建設され、2022年6月1日現在の住民基本台帳上の中央区の住民数は172,706人にまで増加しています。
戦後中央区で一番人口数が多かった1955年(昭和30年)の区民の数171,316人を上回っています。
現在中央区の湾岸エリアのタワマンの価格はファミリータイプの65㎡~75㎡で7,500万円~1億2,000万円程度となっていますので、正にジェントリフィケーションが起きと事を示しています。
都心では近年相次いで再開発のビッグプロジェクトが進み、至る所でジェントリフィケーションが起きています。
但し、日本の場合は、賃貸の賃料はマンションの売買価格と違い、大きく上昇していないため、現時点では低所得者の排除というイメージはありません。
また土地等を売却した人は別のエリアで売却資金を基に暮らしたり、等価交換を選択した人は再開発後に完成したマンションに住んだため、追い出された訳ではありません。
それよりは、単身世帯とファミリー世帯の住むエリアやマンションが住み分けられており、多くの町内会が実質的に機能不全に陥っているので、今後、益々、単身者とファミリー世帯との隔たりが強まるのではないか?と感じています。
人は多様な人々の結びつきがある方が良い反面、不動産業界の暗黙の了解として「住む場所はその人の年収によって決まる」という実態があります。
その意味ではジェントリフィケーションが起きているエリアであっても、一定規模の都営住宅があるエリアは、商店街が充実しており、日々の日常生活品の価格はある程度抑えられています。
先述した中央区では勝どき一丁目、二丁目、五丁目、六丁目に計1,049戸の都営住宅があります。
また東京23区には、まだかなりの都営住宅があり、中央線の荻窪駅や高井戸駅には相当数の都営住宅があり、そこに暮らす人々が利用する商店街は近くの戸建てや分譲マンションで暮らす人々も利用しており、所得階層の違う人々の交流が街の活性化の要因の一つになっています。
しかし、今後、都心部の都営アパートは新国立競技場の建設に伴って取り壊された都営霞ヶ丘アパートのように、より高い公共性の確保のために強制的に取り壊されていく可能性があり、その場合は低所得者層の排除という負の側面が顕著にあらわれてくるかも知れません。
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