渋谷区で主として中古マンションの売買仲介を行っている株式会社リアルプロ・ホールディングスの遠藤です。
2022年6月17日に証券取引等監視委員会が内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、株式会社エスコンアセットマネジメントに対する行政処分を求める勧告が行われ、2022年7月15日から2022年10月14日までの間業務停止命令が下されました。
株式会社エスコンアセットマネジメントは株式会社日本エスコンが100%出資する子会社で、JーREITに上場しているエスコンジャパンリート投資法人の資産運用会社いわゆるアセットマネジメント会社です。
エスコンジャパンリート投資法人は暮らし密着型の商業施設及びそれらの底地に投資をしているJ-REITで2022年6月21日現在、取得価格ベースで底地の比率が44.8%もある、通常のリートとは異なる資産運用を行っています。
株式会社日本エスコンは「人々の暮らし・理想の街を実現するライフ・デベロッパー」を自称している中部電力株式会社が過半を占める株主となっっている中部電力傘下のプライム市場に上場する企業です。
行政処分に至った理由と業務改善に対応する内容
行政処分に至った理由は、スポンサー企業である日本エスコン所有の信託受益権を含む不動産を相場より高い値段であるにもかかわらず、不動産鑑定業者に圧力等をかけ、エスコンジャパンリート投資法人に日本エスコンの言い値で取得させようとした利益相反行為が金融商品取引法第42条第1項に定まる忠実義務に違反するとしています。
具体的には、まず1つ目が利害関係がある親会社である日本エスコン所有の不動産を投資法人に買わせるために、第三者である不動産鑑定業者に鑑定評価を依頼したが、概算価格が出た段階で3物件が日本エスコンの売却希望価格に達しなかったため、算定を依頼した不動産鑑定会社に、鑑定評価額が日本エスコンの売却希望価格を上回るように、鑑定評価額を引き上げるように働きかけたこと。
2つ目が、複数の鑑定業者に鑑定を依頼したが、最も高い概算価格を出した鑑定業者の報酬額が最も廉価になるように当該鑑定業者と交渉を行い、更に、当該鑑定業者による概算額が最も高かったことを伏せたうえで、当該鑑定業者の鑑定報酬額が最も廉価であるとして、当該鑑定業者を鑑定評価の依頼先として選定したことは、親会社である日本エスコンの売却希望価格を最優先とした不適切な不動産鑑定業者選定プロセスを行ったこと。
の2点となっています。
これにより、取締役の退任や、スポンサー企業の影響力の排除が困難なガバナンス体制の変更や、新たな「物件取得基準」及び「物件取得マニュアル」を制定したり、法令遵守と内部管理体制の構築を着実に実現するために、私募リートの組成を中止するといった内容を公表しています。
不動産市場の転換期!?
今までにJ-REITで業務改善命令等が金融庁からだされた事例は、私の記憶が正しければ下記の3例だったと思います。
・2007年(平成19年)3月13日 株式会社ダヴィンチ・セレクトに対する業務改善命令及び業務改善命令
・2008年(平成20年)9月 5日 プロスペクト・レジデンシャル・アドバイザーズ株式会社に対する業務改善命令
・2008年(平成20年)10月9日 シービーアールイー・レジデンシャル・マネジメント株式会社に対する業務改善命令
不動産ファンドバブルの崩壊がはじまった2007年9月から顕在化したサブプライムショックを発端に2008年9月15日リーマンブラザーズの倒産によるリーマンショック(世界金融危機)がおきましたが、その前夜に上記の行政処分の事例が起きています。
ダヴィンチ・セレクトの親会社であった株式会社ダヴィンチ・アドバイザーズは当時のヘラクレス市場に上場しており、不動産証券化事業で破竹の勢いでしたが、世界金融危機により傘下のDAオフィス投資法人は大和証券オフィス投資法人に身売りとなりました。
この頃、私も上場を狙う不動産投資顧問会社の専務をしていましたが、新興の上場不動産企業がバタバタと倒産し、私が専務をしていた会社も民事再生となり、私は独立して自らが手掛けた開発業務の土地等の不良債権の処理をしており、生きるか死ぬかの地獄を数年間耐えしのぎました。
3つの行政処分のうち、最後のシービーアールへの業務改善命令は、J-REIT史上、最初で最後になるだろうと言われているニューシティ・レジデンス投資法人の破綻処理を適切に行うようにと指示なので、今回のエスコンアセットに対する行政処分とは主旨が異なります。
しかし、ダヴィンチとプロスペクトへの行政処分は今回のエスコンアセットへの行政処分と内容が似ています。
行政処分の理由を端的に言えば、リートが購入又は購入しようとしている不動産価格がスポンサー企業の思惑通りの評価額に至らなかったために、本来独立性が求められる不動産鑑定業者に対して、鑑定価格をスポンサー企業の希望売却価格またはそれ以上の金額になるように圧力等をかけたり、収益還元価格のもととなる賃料収入や経費の不適切な操作や適切開示を怠ったとういう点です。
不動産市場が伸びている際には、不動産鑑定価格は高くなる傾向にあり、黙っていても鑑定評価額は高くなりますが、経済情勢や先行きが不透明になってくると、不動産鑑定士はコンサバになり、自ずと鑑定評価額は伸びにくくなります。
現在、コロナ禍回復による人出不足やロシアによるウクライナ侵攻による食料不足やエネルギー問題が顕在化したことによるインフレと世界各国の当局によるインフレ抑え込みのための金利政策の転換による金利高のリスク、はたまた、阿部元首相が銃撃によりお亡くなりになるなど、経済情勢は予想がつかいない状況であり、世界金融危機の時と状況は異なれど、不動産価格の更なる上昇の限界点に近いという話は各方面からも聞こえてきています。
一方で、資源高、アスベスト規制、建築現場の職人不足等による建築費の高騰により不動産価格は今後も下がらないという考え方もかなり根強いです。
例えば、今後は新築の分譲マンションを建築するにはファミリータイプで1住戸あたり最低5,000万円以上の値段をつけられない開発は成り立たないと言われており、また、気候変動が顕在化してきた今、大量の二酸化炭素を排出させるスクラップ・アンド・ビルドではなく、既存の建物の再利用するという観点からは、既存の建物は益々重要視され不動産価格はむしろ今後も上昇していくという考えです。
いずれの説もそれなりに根拠があり、多額の投資額が伴う不動産投資は今後、非常に難しい局面を迎えるのではないでしょうか?
話をもとに戻しますが、スポンサー企業とアセマネとリートは密接な関係性があることは既に周知の事実です。
継続して不動産を供給してくれるスポンサー企業がいなければ、リートは不動産を安定して購入することができず、また、リートは実質単なる器でしかないので、指図してくれるアセマネがいないと運用できません。
また、これらの関連企業は、スポンサー企業にとっては、開発した不動産を好不況下限らず、安定して確実に売却したり、スポンサー企業の社員の天下り先の一つとしても重要でまさに諸刃の剣です。
一方で、あまりにガバナンスを重視してしまい、スポンサー企業とアセマネが訴訟寸前までというケースもありました。
しかしいずれにせよ、スポンサー企業の知名度により、J-REIT銘柄はブランディング化されており、これを完全に分離する訳に行きません。
最終的には、それぞれで働く人々の公平性や法令遵守、人柄に頼るか、さもなければAIで機械的に業務をこなすしかないとは思いますが、今後同様の事例が出ないことを望みたいと思います。
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