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水道料金は今後上昇していきます!

渋谷区で主として中古マンションの売買仲介を行なっている株式会社リアルプロ・ホールディングスの遠藤です。

 

新型コロナの収束による経済活動の再開とロシアのウクライナ侵攻により、様々な物が値上げしています。

 

不動産の価格、特に都心部のマンションの値上がりは、早10年以上続いています。

 

また、ここ2年くらいで食料品や電気代などの生活インフラも値上げラッシュとなり、生活が苦しくなったと感じる方も増えていると思います。

 

そのような状況下でも、「今年こそはマイホームを購入するぞ!」と考えられている方もいらっしゃると思います。

 

そこで、今回は不動産購入の際に、盲点となる注意点について解説をしたいと思います。

 

現在、様々な値上げラッシュが続いていますが、不動産購入後の生活インフラの費用は、電気代が値上がりしたのと同様、今後も他のインフラ費用も上がり続けるという事を忘れずにいて頂きたいと思っています。

 

そのような中で今回注目するのが水道料金の値上げです。

 

後ほど、なぜ水道料金が値上げになるかについての背景等を詳しくご説明しますが、上水道は市町村の他の事業とは独立した採算で運営しており、料金収入で費用を原則まかないます。

 

そのため、財源が厳しい中で老朽管の取り換え費用を得るには、まずは「値上げ」が選択肢となっています。

 

福岡県行橋市は2005年に平均で13%引き上げ、埼玉県深谷市は2017年に平均で15%引き上げ、埼玉県川口市は2021年に平均で25%の値上げ、神奈川県横浜市も同年2021年に平均で12%の値上げ、石巻地方広域水道水道企業団(宮城県石巻市・東松島市に水道水を供給)は平均で20%の値上げなどとなっており、ゆうに100を超える水道事業者が値上げに踏み切っています。

 

民間の研究グループ(EY新日本有限責任監査法人)の公表によると、一般的な3人家族の1世帯当たりの水道料金は対2018年比で2043年には、全国平均で約43%上昇するという試算も出されています。

 

このように、生活する上での重要な基盤である電気料金だけでなく、水道料金までもが上昇しています。

 

これらの上昇よりも給料が上がれば問題ありませんが、年収アップが期待できない方は、マイホームの購入時の生活費の試算を予め、厳しめに設定しておく必要があります。

 

これから不動産購入をされるエリアの水道料金がどれくらいかは、下記「生活ガイド.com」サイトにより確認が可能です。

 

https://www.seikatsu-guide.com/ (生活ガイド.comサイト)

 

長く停滞していたデフレーションから日本は確実にインフレーションの道を進んでいます。

水道事業を取り巻く現状について 

水道事業はその公共性の高さから市営・町営・村営が主体で上水事業全体の約95%を占めています。

 

日本全国の水道普及率ですが、令和元年度(2019年度)末には98.1%、約1億2,377万人の方が利用しています。

 

日本は世界の中でも極めて安全性が高く、美味しい水を供給しています。

 

日本でも水道水ではなく、飲料水としては、ペットボトルの水を利用する方も多く、既にペットボトルの水は市民権を得ていますが、お風呂や洗濯、食器洗いや手洗いなどで、私たちは暮らしの中で大量の水道水を利用します。

 

また、水道水はその美味しさにも定評があります。

 

以前、高尾山に登山した際に、東京都の水道水の美味しさをアピ-ルする催しが開催されていましたが、登山の後に飲んだせいかもしれませんが、確かに美味しかったです。

 

このように蛇口をひねれば、安価で国内どこでも美味しい水が飲める国は世界中探してもほとんどありません。

 

しかし、今までの安価な料金設定による提供が原因で、今後は水道の料金は確実にあがっていくことは紛れもない事実です。

 

水道料金が安い理由は、財源が各市区町村の住民が支払っている水道料金のため、単年度の収支だけを見て水道料金が設定されてきたことによります。

 

今はマンションでも長期修繕計画書があり、その計画に基づいて修繕積立金の値上げが行われていますが、水道料金には水道管等を更新するための費用がほとんど計上されてこなかった歴史があり、また更新期間も実務上60年と長いスパンなのでほぼ半永久的に使えるとの思い込みで、水道管の破損漏事故の顕在化により事の重大さがようやくわかってきた感があります。

 

いわゆる壊れたら直すという事後保全的な考えです。

 

そのため、水道管全体を更新するという発想ではなく、場当たり的な対応で、いままで処置してきたつけがここにきて表面化してきてるのです。

 

水道事業の主な課題は以下の4つになります。

 

①老朽化の進行

 

 ・高度経済成長期に整備された施設が老朽化し、年間2万件を超える漏水・破損事故が発生。

 

 ・耐用年数を超えた水道管の割合が年々上昇中である事。

 

②耐震化の遅れ 

 

 ・水道管の耐震適合率は約4割程度で耐震化が進んでいない事。

 

 ・大規模災害時に断水が長期化する恐れがある事。

 

③小規模な水道事業者が大多数

 

 ・東京や神奈川、政令指定都市や地方主要都市以外、日本の多くの水道事業者が小規模で経営基盤が脆弱。

 

 ・小規模水道事業者の人手不足による緊急時対応への備えや適切な資産管理が出来ないリスク。

 

④計画的な更新のための備え不足

 

 ・約1/3の水道事業者が、赤字に陥っている。

 

 ・計画的な更新に要する資金を確保できていない事業者が多い。

 

水道水自体の供給量は、節水機器の普及や人口減少等により、西暦2000年頃をピークに減少しており、2050年頃にはピーク時の約2/3程度まで減少する見通しのようですが、同時に職員数は1980年頃のピークと比較して2019年には約39%も減少しています。

 

これらの課題を早急に解決していかないと、水道水の供給自体が難しくなる自治体があちこちで出てくる恐れがあります。 

  

令和4年に行われた厚生労働省主催の「令和3年度全国水道関係者担当者会議」の資料によると令和元年度(2019年度)時点の日本の水道管の総延長は726,804kmで地球を約18.25周できる長さがあり、その内、法定耐用年数である40年を過ぎた水道管の距離は約19.1%の138,983kmとなっており、逆に古くなった水道管を更新したのは、わずか0.67%の4,862kmとなっています。

水道管の老朽化による破損の現況と対応 

ここ10年程の間に、にわかに増えているのが水道管の破裂による被害です。

 

突然道路から水が噴き出し、水柱は高さ10mまでに及び、道路が陥没。周囲の1,000世帯以上が断水。渋滞も発生。と言った内容のテレビのニュースも多くなっています。

 

水道管の耐用年数は40年程度と言われていますが、敷設された条件や水圧などにより劣化速度はかわりますが、地中内にあるため、実質検査等が後手に回り、突然破裂するという状況が各地で起きています。

 

但し、実務上での一般的な更新規準は平均するとおおむね60年となっており、明治時代に敷設した水道管で事故が起きていない水道管も多数あり、劣化の状況を一概に把握するのは、極めて厳しいと言えます。 

 

このような状況化で、注目されているベンチャー企業があります。

 

水処理技術大手の栗田工業株式会社が買収した、米国の水道分野において人工知能や機械学習を活用した水道管の劣化予測のソフトウエアサービスを展開するFRACTA(フラクタ)という企業です。

 

この企業は米国を中心に米英日3か国の約1,000の事業体において、延長約20万km、約30万件の水道管の破損漏水事故を学習、日本だけでも約3万km、1万件以上の破損漏水事故を学習済で、多くの自治体が既にこのFRACTAと連携して破損漏水事故に対する取り組みを行っています。

水道法の一部を法改正(令和元年10月1日施行)

このような状況下で、水道の法の一部を改正する法律(平成30年法律第92号)が令和元年(2019年)10月1日施行されました。

 

改正の趣旨は「人口減少に伴う水の需要の減少、水道施設の老朽化、深刻化する人材不足等の水道の直面する課題に対応し、水道の基盤の強化を図るため、所要の措置を講ずる。」というものです。

 

改正の概要は以下の通りとなります。

1.関係者の責務の明確化

①国、都道府県及び市町村は水道の基盤の強化に関する施策を策定し、推進又は実施する努力義務。

②都道府県は水道事業者等(水道事業者又は水道用水供給事業者をいう)の間の広域的な連携を推進する努力義務。

③水道事業者等はその事業の基盤の強化への努力義務。

 

2.広域連携の推進

①国は広域連携の推進を含む水道の基盤を強化するための基本方針を定める。

②都道府県は基本方針に基づき、関係市町村及び水道事業者等の同意を得て、水道基盤強化計画を定めることができる。

③都道府県は、広域連携を推進するため、関係市町村及び水道事業者等を構成員とする協議会を設けることができる。

 

3.適切な資産管理の推進

①水道事業者等は、水道施設を良好な状態に保つように、維持及び修繕をしなければならない。

②水道事業者等は、水道施設を適切に管理するための水道施設台帳を作成し、保管しなければならない。

③水道事業者等は、長期的な観点から、水道施設の計画的な更新に努めなければならない。

④水道事業者等は、水道施設の更新に関する費用を含むその事業に係る収支の見通しを作成し公表するよう努める。

 

4.官民連携の推進

地方公共団体が、水道事業者等としての位置付けを維持しつつ、厚生労働大臣の許可を受けて、水道施設に関する公共施設等運営権※を民間事業者に設定できる仕組みの導入。

 

※公共施設等運営権とは、PFIの一類型で、利用料金の徴収を行う公共施設について、施設の所有権を地方公共団体が所有したまま、施設の運営権を民間事業者に委託する方式。

 

5.指定給水装置工事事業者制度の改善

資質の保持と実体との乖離の防止を図るため、指定給水装置工事事業者の指定※に更新制(5年)の導入。

 

※各水道事業者は給水装置(蛇口やトイレなどの給水用具・給水管)の工事を施工する者を指定でき、条例において、給水装置工事は指定給水装置工事事業者が行う旨を規定。

 

となっています。

 

強行規定的な内容は含まれていないので、実際に機能するかは未知数ですが、先述したFRACTAとの連携がかなり期待されています。

 

但し、問題点は加速する地方の人口減少です。

 

憲法22条で居住及び移転の自由は保証されていますが、わずかな人しか住んでいない村までの長い水道管を更新することは、大切な資金源を枯渇させる大きな要因になりかねないために、別途利用者から敷設料金を徴収する、若しくは、水道料金を数倍に値上げするという水道事業者がでてくるかもしれません。

 

実際、私は5年程前に、栃木県の那須の別荘地の売却の相談を受け、那須塩原市役所を訪問しましたが、新たに住宅を建てる場合、那須塩原市所有の水道本管までのつなぎは全て個人負担で維持管理も個人で行ってもらうか、井戸をご自身の費用負担で掘ってくださいとの事でした。

 

300㎡する土地代が30万円なのに、私設の水道管設置費用で200万円、井戸を掘っても200万円と土地代よりも、水の確保のための費用が高く、誰も買い手はつきませんでした。

 

役所の断りの理由は、「行政機関はこれ以上、水道管の敷設や維持管理できる予算は全く無いです。現時点で赤字なのでこれ以上将来にわたって赤字を更に増やす事業は出来ません」との事でした。

 

今後は、実際問題として、首都圏でも場所によっては、水道管の新設は全て私設菅、また、水道料金は住んでいるエリアによって大幅に違ってくる時代がもうすぐやってくるかもしれません。