渋谷区で主として中古マンションの売買仲介を行っている株式会社リアルプロ・ホールディングスの遠藤です。
渋谷区では老朽化した小学校や中学校の建て替え計画をいくつか進めていますが、その中で特に注目されているのが渋谷区役所に隣接する渋谷区立神南小学校の建て替え計画です。
この計画は神南小学校だけでなく、道路を挟んで東側に位置する築49年の分譲マンション「渋谷ホームズ」との一体の建て替え計画となっており、神南小学校の空中権を渋谷ホームズへ移転させて、現在の14階建てから33階建てのタワーマンションに建て替えるという手法となっています。
これに伴い、渋谷区は空中権の取引による対価は受け取らずに、建て替え準備組合と協力する大手デベロッパーが神南小学校の建て替え整備を行うという手法です。
渋谷区は2019年1月15日に開庁した新渋谷区役所庁舎を建設した際には、敷地の一部を三井不動産との間で定期借地権70年で契約を行い、区役所、公会堂を区の負担無(軽減)で建て替えた全国初の事業を行った実績があります。
三井不動産は、この定借した土地に地上39階地下4階建て、総戸数503戸の「パークコート渋谷 ザ タワー」を建設しました。
手法は違えど、今回も区の財政負担無(軽減)で公共施設を建て替えるという試みとなっています。
また容積移転に伴う対価については、2024年9月19日の日経新聞の記事によると、「区議会への報告では52億円となっているが、区とは関係の無い立場の不動産鑑定士による評価では101億円という容積移転の価格が出ている。」との内容の記事が掲載されていました。
担当するまちづくり第三課では鑑定評価の違いはコメントする立場にないとしていますが、神南小学校の整備費用と容積率移転の対価がイコールかどうかについては、この計画に反対する方たちから異論がでるかもしれません。
空中権とは
空中権とは、主として2つの意味があります。
1つ目は簡単に言えばご自身が所有している土地の上部の空間をその所有者として自由に使える権利で、かなり強力なものです。
但し、航空法などで高さ制限がある場合は、公共の利益が優先されるので、その高さ制限以下でないと権利は主張できません。
逆に、土地に地役権設定されている東京電力などの送電線は、その土地の所有者よりも、その土地の空中を使用できる権利となっています。
2つ目は都市計画で定められた容積率(建物の敷地面積に対する総床面積の割合)のうち、利用してない余った容積を他の土地に移転する権利を指します。
容積率とは例えば都市計画で容積率400%という指定を受けた100坪の土地の場合は、建物を100坪の土地の4倍まで建築可能とする法規制です。
この100坪の土地に200坪の建物が建っていた場合、200坪分(容積率200%)の容積率が余っているということになります。
一定の条件をクリアすれば容積率を割増しする方法(実質的に容積率が移転される)として、「特定街区」「一団地の総合的設計制度」「高度利用地区」「連坦建築物設計制度」などの制度がありますが、いずれも移転対象建物が隣接している必要があり、「連坦建築物設計制度」を除いて既存建物の未利用容積率を単純に移転することはできません。
但し、2001年に創設された「特例容積率適用地区制度」では、より大きな範囲で容積率を移転できます。
これは、かなり行政を動かす必要がある都市計画で、そう簡単には実現できない制度です。
この制度がで定められたエリアとしては「大手町・丸の内・有楽町地区特例容積率適用地区」約116.7ヘクタールが指定され、東京駅で未使用となっている容積率を、その周辺の「東京ビルディング」、「新丸ビル」、「丸の内パークビル」などに移転し、既存の定められた容積率以上の高層ビルが建設されています。
その分、東京駅は新たに積み増しして新たなビルを駅上空に建設することは出来ないことになります。
容積率の移転は建築確認によって認められるもので、当事者が空中権を直接に取引する法制度が定められている訳ではありませんが、容積率を移転する敷地に対して移転先の敷地所有者が地役権を設定し、移転敷地所有者にその対価を支払うという方法が取られています。
今回の手法は先述した通り、金銭を対価として支払うのではなく、神南小学校の新校舎建設と整備を行うという形で補償する形となります。
2007年にゼネコンのサラリーマン時代にニューヨークに研修に行った際に、不動産開発会社から、米国にはTDR(Transferable Development Right:移転可能な開発権)という法制度があり、未利用容積率を移転する権利が法制化されていると教えてもらいました。
理由は米国はヨーロッパと違い歴史が浅い国なので、古い建築物に憧れを抱き、また、大事にするので、その権利を守るためにも必要だと言って、教会などを案内してもらい、その土地にTDRを利用して歴史的建造物を保存している旨の標識が設置されていた記憶があります。
日本でも総合設計制度を利用して建築された建物の公開空地には総合設計制度を利用していることを記載した標識が設置されています。
永遠に進化し続ける渋谷区
渋谷駅前は東急グループが中心になって100年に一度と言われる巨大プロジェクトがほぼ完成しましたが、今後も渋谷東急本店跡地の開発、NHK放送センターの建て替え工事、岸記記念体育会館跡地のスポ-ツパーク施設計画等、と渋谷区役所周辺は東京オリンピック以降大きな変貌を遂げ、進化し続けています。
神南小学校と渋谷ホームズの一体開発はこのエリアに該当します。
都心中心部には大規模な建物を建設する土地は限られていると言われる中で、渋谷区は老朽化した建物を新たな手法を利用して次々と新たな大規模建築物を生み出しています。
渋谷区駅前開発により渋谷は若者の街から大人の街へと進化しています。
またスポーツ施設や文化施設も充実しており、今後も目が離せない未来を見据える街として発展していくものと思われます。
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