· 

赤字路線の公共交通機関をどう維持していくのか

渋谷区で主として中古マンションの売買仲介を行っている株式会社リアルプロ・ホールディングスの遠藤です。

 

「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」は、地域の公共交通に関する計画や様々な事業に関する対策について定めていて、地域の交通機関の活性化や再生に向けて運行を継続させるために、地方公共団体や事業者が各事業ごとに実施計画を作成し、国土交通大臣の認定や事業許可のみなし特例等の特例をうけるための法律です。 

 

人口減少が著しい「ローカル路線」を取り巻く経営環境は厳しい状況が続いています。

 

「ローカル路線」とは、一般的に地域や特定の地域内で運行される鉄道やバスなどの公共交通機関の路線を指し、これらの路線は、主に近隣の住民や通勤者など地域の利用者にサービスを提供することを目的としています。

 

JR東日本が2024年10月29日に公表したデータによると、利用者が少ない地方36路線72区間について、2023年度の営業収支が757億円の赤字となっています。 

 

赤字路線の赤字を補填していた都心部などの黒字路線もコロナ禍による乗車人員の減少や、コロナ禍後もテレワークの普及などにより、乗車人員はコロナ禍前の状態には戻っていません。

 

そのため、鉄道会社やバス運行会社の経営にも余裕が無くなり、過疎が進む地方の赤字路線では、各地で存続か廃止路線とするかについて議論が高まっています。

 

地域住民、特に高齢者や学生にとって、公共の交通機関は生活必需品ではありますが、路線を維持するためのハードルは高く、今後は廃止決定のエリアも増えていくものと思われます。

 

当然、鉄道路線などが、廃止路線となれば、不動産の資産価値にも大きな影響を及ぼします。

 

もちろん、JR東日本内で万年赤字路線を第三セクターに移行し、観光業を柱として、煎餅「い鉄揚げ」や饅頭「房総のけむり饅頭」の販売、レストラン列車を走らせたり、テレビドラマのロケ地としての誘致などあらゆる手段を尽くして再生させた「いすみ鉄道(大原駅~上総中野駅)」などの復活事例もありますが、全体的には非常に厳しい状況です。 

久留里線 木更津駅
久留里線 木更津駅

JR東日本の2023年の赤字路線 

JR東日本内における運輸収入100円を得るための経費(営業係数)が最もかかる区間は、久留里線の久留里―上総亀山間で1万3,580円となっています。

 

同区間の輸送密度は1987年度に比べて平均通過人員はマイナス92%の水準まで落ち込んでおり、JR東日本は今後の再編に向けた協議を地元自治体に申し入れています。

 

ちなみに1987年は国鉄が12の民間企業に分割されJRに名称変更した年です。

 

赤字ローカル路線はJR各社に共通する課題となり、JR東海を除く旅客各社は路線ごとの赤字額を公表し、各地で存廃を巡る協議に入っています。

 

下記は2023年度のJR東日本の営業係数順の赤字路線のワースト10になります。

またここにはランクインしていませんが、中央線の辰野駅~塩尻駅間でも4億73百万円の赤字となっており、営業係数は1,802円で、都心部の人気路線である中央線でさえ、区間によっては赤字路線となっています。

 

今後のこのようなエリアで不動産を購入した場合、資産価値無くなってしまう可能性もあるので、注意が必要です。 

 

JR東日本の「線区別収支」はJR東日本のホームページ上で閲覧することが可能です。線区別収支 

赤字路線への対応策  

法律が制定され、協議を始めたとしても地域の足を維持するための根本的な解決策は難しい状況です。

 

鉄道路線を維持するには自治体が鉄道インフラを保有して運用は企業に任せる「上下分離方式」や、経営主体と収益責任を地元に移行する「第三セクター」化といった手段が候補に挙がっているようです。

 

上下分離方式はJR東日本では只見線の一部区間で導入したほか、私鉄の近江鉄道(滋賀県彦根市)も2024年4月1日から導入し、2024年12月14日に9,500万円の黒字化に転換したと報じられています。

 

しかし、地元自治体にとっては多額の負担が重荷となりますし、赤字路線は、山岳部を走り、川沿いの谷に沿って走るローカル路線も多く自然災害によってひとたび寸断されると、存廃議論が持ち上がりやすいという問題も抱えています。

 

特に昨今の気候変動による自然災害の規模は甚大です。

 

2020年7月の豪雨災害で被災したJR肥薩線は、球磨川の氾濫により八代駅(熊本県八代市)~吉松駅(鹿児島県湧水町)間の約87キロメートルが不通となりました。

 

復旧には235億円の費用がかかり、運転を再開できたとしても赤字路線であることがネックとなります。

 

JR九州は熊本県などと協議を続けているようですが、鉄道での復旧に慎重な姿勢を崩していません。

 

自然災害の激甚化、頻発化により、復旧してもすぐに違う箇所が被災するといった繰り返しが、事業者の体力を奪っています。

 

このようなエリアの不動産は、自然災害の影響を受けやすく、また、JR肥薩線のような事象が発生すると、不動産の資産価値が一気に下落してしまう要素をはらんでいます。

 

赤字路線の存廃議論を促せるよう改正地域公共交通の活性化及び再生に関する法律が2023年10月に施行され、鉄道以外の移動手段の検討も議論されていますが、これも人手不足のため一筋縄にはいきません。

 

鉄道の維持を諦め、バス路線に切り替える手法も、バスの運転士不足という問題が立ちはだかっているからです。

 

JR北海道の鉄道路線を廃線にした後の代替バスに関する議論も停滞しているようです。

 

勿論、バス運転士不足は自動運転等で代替えしていく事も検討されていますが、人口が多い都心23区内でもバスの運転士の高齢化やインフルエンザなどが流行することで、バスが運行できないケースが実際にでてきています。

 

いずれにせよ、車の完全自動化等のテクノロジーに代替えが進んだとしても、不動産を購入をする際には、ローカル路線で廃線が議論されているようなエリアは資産価値がゼロになる可能性もあります。

 

地元でやむなく購入するとしても、人口がある程度集積したハザードエリア外の物件を選ぶようにしましょう。

 

よくわからない場合には信頼のおける不動産会社に聞くか、各自治体が定めて居る立地適正化計画の中の居住誘導区域内で物件を選ぶと言うのは有益な手段です。